研究成果について

がん増殖を止める「手がかり」発見(2013/4/30発表)

がん増殖を止める「手がかり」発見

生徒:先生、「がん」って何?

島先生:人間の体は約60兆個もの細胞から出来ていて、「細胞は古くなると死に、そして新しい細胞が作られる」といったサイクルをたえず繰返しているの。細胞の設計図である遺伝子がコピーされることで、新しい細胞がつくられるのよ。
しかし、健康な人でもさまざまな原因(お酒・たばこ・食物...)で遺伝子に傷がつき、遺伝子の"コピーミス"が起こることがあるの。こうした"コピーミス"で出来た異常な細胞(がん細胞)は死ぬことがなくどんどん増え体内に広がってしまうの。それが「がん」なのよ。

図1

生徒:がん細胞はなぜ増え続けるの?

島先生:細胞の中には、色々な種類のタンパク質が存在し、その内の一つRas(ラス)タンパク質が正常細胞を増えすぎも減りすぎもしないようにオン・オフのスイッチの役割をしているの。
しかし、がん細胞の中では、Ras(ラス)タンパク質が上手く働かず、増殖スイッチがオンのままになり、がん細胞がどんどん増え続けとまらなくなるの。

生徒:Rasタンパク質の異常な働きをもとに戻せないの?

島先生:今までは、Rasの異常な働きを止める方法はないと考えられていました。
ところが、私も加わっている神戸大学の片岡教授のグループが、SPring-8のX線を使ってこのRasタンパク質の結晶構造解析を進めているときに偶然、細胞増殖にブレーキをかけることが出来る方法をみつけたの!!

図2

生徒:どんな方法なの?

島先生:それは、Rasの表面に "くぼみ"があり、くぼみにぴったり合う薬剤でふたをすればRasの異常な働きをとめることが出来ると考えたの。

くぼみと合う化合物を約4万種類の中からコンピューターシミュレーションして絞り込み、マウスを使った実験を行った結果、くぼみに合う薬剤候補の3種類(Kobeファミリー)を特定することが出来たの。人の大腸がん細胞を移植したマウスにこれら3種類の薬剤候補を投与した結果、投与しない場合に比べ、がんの大きさが半分程度に抑えられたのよ。

図3

生徒:すごいね!!それじゃ、すぐに、がんをやつける薬が出来るね。

島先生:薬剤候補の3種類は、人を対象とした臨床試験をするのには、思わぬ副作用が起こる可能性もあるので、毒性の有無を確認し、慎重に研究を進める必要があるの。けれども3年以内には人への応用を目指した臨床試験を始めたいと考えているのよ。

 

先生顔写真

神戸大学大学院医学研究科 教授 片岡 徹(中央)
             准教授 島 扶美(右)
高輝度光科学研究センター 博士 熊坂 崇(左)

本成果は、SPring-8 NEWS 11月号で研究成果・トピックスとして取り上げられる予定です。こちらもぜひご覧ください。

もっと詳しく知りたい方はこちら
プレスリリース本文 | SPring-8NEWS71号(2013.11月発行)

カテゴリ生命科学・バイオテクノロジーシリーズ投稿日2013年9月17日 09:03